認知症とは子供に帰ること

認知症とは一つ一つ失っていくもの


今日も多くの患者様が来院されて、帰る頃にはすっかり辺りも暗くなり、月がぽっかり浮かぶ夜でした。


最後の会計を締めて、院長にあいさつをし、クリニックを出たすぐの駐車場で、一台の車が急に大きな警鐘をあげはじめました。

暗闇の中を恐る恐る近づくと、一人の80代女性の方が、車を降りて、シャッターの降りたクリニックの中を覗き込もうとしていました。

車の警鐘は、女性が車を降りたために鳴ったようです。

顔を覗き込むと、見覚えのある患者様です。

「どうされたんですか?」と尋ねたところ

「私、ここにどうして来たのかしら。一緒に来たのって娘だったかしら。ぼけてしまってわからないのよ。」と。

確か、今日は娘さんが薬だけをクリニックに取りにきたはず。きっと、このおばあさんだけを車に待たせて、薬局に薬を取りに行っているのかもしれない。と思い、この女性を連れて一緒に薬局に行くことにしました。

「ごめんなさいね。私ぼけてしまってて。よくわからないのよ。今日は薬はないと思うのよ。一体誰と来たのかしら。」と何度も申し訳なさそうにお話しされます。

その女性の手を取りながら、私はふと昔の光景が目に浮かびました。


我が家の子供たちが幼かったころ、上の子の幼稚園の迎えの時間、下の子が昼寝をしていました。本当なら起こして一緒に連れて行くべきだったのでしょうが、あの頃の私はまだ若く未熟で無責任で、「少しの間だし、連れていくと面倒だし、まだ、一人でドアも開けられないし、こっそり迎えに行ってしまおう。」と下の子を置いて出かけました。

上の子を連れて家に戻ると、なんと当時1歳だった息子が、ドアの外で、近所の方に抱かれて泣いているではありませんか。

「そう君、泣いて外に出ようとしたところを見かけたから、一緒に待っていたのよ。」と親切な近所の方。開けられなかったはずのドアを一人で開けて泣いていた息子。一人で置いてきぼりにされてさぞ心細かったのでしょう。私が抱っこしても、しばらく泣き続けていたのを覚えています。


認知症の女性にあの頃の幼かったわが子が重なり、認知症は子供に帰ることなのかも。と思いました。子供は出来なかったことが一つ一つ出来ていくようになるけれども、認知症は出来ていたことが一つ一つ出来なくなっていくこと。悲しいけれど、自然なことなのかもしれません。


最近の嬉しいニュース


警察庁によると、75歳以上の高齢ドライバーによる交通死亡事故の割合は増加傾向にあり、去年は10年前と比べてほぼ倍となったようです。しかし、去年、高齢ドライバーによる事故が大きく報道されたことが影響しているのか、改正道路交通法が施行された今年3月12日から先月末までの81日間で、すでに10万人以上が免許を自主返納したことも分かりました。ただし、返納率が高いのは東京、大阪など首都圏近郊ばかり。地方では車が必需品のため、なかなか返納率が上がらないとか。そのために警察庁は、事故を起こす可能性が高い高齢ドライバーに対し、運転できる時間や場所を限定したり、自動ブレーキ機能などを搭載した「安心運転サポート車」、通称「サポカー」に運転を限定する免許の導入を検討することを明らかにしたようです。国土交通省もサポカーに使われる自動ブレーキ機能搭載の車の認定制度を検討する方針です。


まとめ


日々、認知症の患者様やその家族の方と接する機会が多く、色々なことを考えさせられます。
自分の親のこと、自分が老いていくこと。重ね合わせて考えては寂しく思ったり、不安を感じたり。
そんなことを考えていると、3人の娘息子達から、グループLINEが入りました。敬老の日が近いのでおばあちゃんやおじいちゃんにプレゼントを考えているようです。今年のプレゼントは、【あんしんみーちゃん】という電話に備え付ける、音声つきの振り込み詐欺対策用のおしゃべり人形だそうです。どうも電話の声に反応して、振り込め詐欺への注意を促してくれるのだとか。
今から、おじいちゃん、おばあちゃんの喜ぶ顔が目に浮かび、私も届くのが楽しみです。
           




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公安委員会からの手紙

最近、公安委員会からの書類をもった高齢者の方が突然病院を訪れることが多くなりました。聞くと違反もしくは、更新時の検査の認知症疑いで、診察を受けるよう警察から指導があったとのこと。一人で来院される方、家族を伴って来院される方と様々ですが、どの方も不安な面持ちで来られます。私の同居している義父母も既に75歳を過ぎていますので、他人事ではありません。


道路交通法改正


2017年3月12日に道路交通法が改正になり、75歳以上の高齢ドライバーが認知症と診断されると、免許証は停止または取り消しされることとなりました。認知症になると、身体機能と認知機能が低下し、運転のような複雑な動作を行う時に、事故を起こす可能性が高くなるからです。昨今、高齢ドライバーの自動車事故が急増しているのも事実だそうです。

高速道路の逆走の約7割が65歳以上で、約1割が認知症の疑いとのデータもあります。


免許更新時の手続きについて


道路交通法の改正と共に、70歳以上の自動車免許の更新手続きも改正されました。

70歳以上~75歳未満の方には、以下のような2時間の講習を受けることになっています。


  • 運転免許適正検査(30分)

  • 双方向型講義(30分)

  • 実車指導(60分) 





75歳以上の方には、約30分の認知機能検査が必要です。


  • (認知機能が低下している恐れのある方)75歳未満の方と同じ講習を受けて免許更新

  • (認知機能低下の恐れがある方)実車指導と個別指導の計3時間の「高度化講習」を受けて免許更新

  • (認知症の恐れがある方)後日臨時適正検査または医師の診断が必要。認知症の診断の場合は免許停止、または取り消し。診断結果に問題がなければ、実車指導と個別指導の計3時間の「高度化講習」を受けて免許更新





その他特定の違反行為(信号無視、横断禁止等)があった方も上記のような認知機能検査が臨時で行われる流れになっています。




病院での検査


公安委員会からの書類をもって来られる方は、当院のかかりつけの方は勿論ですが、初診の患者様も多く見受けられます。聞くと、公安委員会から近くの「認知症専門医」ということで当院を紹介されたようです。直接、かかりつけ医に相談をし、かかりつけ医からの紹介状を持って来られる方もいらっしゃいます。

当院では認知症検査には、診断には時間と多くの検査が必要ですので、まずは普通の外来時間ではなく、認知症の方の特別外来を予約して頂いています。

詳しくはこちらをご覧下さい➡認知症の検査について


診断後は、公安委員会の書類を医師が記載し、再度警察に行っていただく流れになっています。明らかな認知症のある方には免許自主返納をお勧めしたり、診断書を公安委員会に再度持っていき、本人に自覚を促すべく再検査の上、免許停止になる方が多いようです。




免許停止になるということ


私の住んでいる地域はいわゆる田舎ですので、車がないと生活が出来ません。高齢者もそれは同じで、車は生活の一部になっています。車を取り上げられた途端、何もすることが無くなって、却って認知症が進む可能性も否定出来ません。都市に住んでいる方でしたら、電車やバスなど当たり前のように利用でき、それほど不便を感じずに手放すことが出来るかもしれませんが、地方では、車イコール生活ですので、高齢者にとっては大きな問題です。

しかし、高齢者の免許停止、認知症をきっかけに、離れていた家族同士が協力して、物事が解決していくこともあります。私も当院の医師の診察を事務という立場で拝見し、最初、非協力的・無理解であった家族が、親の加齢に初めて気付き動揺し、時には家族同士で喧嘩しながらも、免許停止後の親の生活を支える方向に動き出されるのを、「家族っていいな」と思うことがあります。

免許停止を後ろ向きに捉えず、免許停止になることによって、何か他の生きがいをみつけられる社会づくりが大切と考えます。私の住んでいる県では、免許返納者へ以下のような特典が受けらるそうです。



  • バス乗車運賃割引(路線バス半額)

  • タクシー乗車運賃割引(タクシー乗車運賃の1割引)

  • 鉄道運賃割引(特典付き回数乗車券など)

  • 宿泊・温泉入浴割引(施設によって違いはありますが、入浴料半額など)

  • 商品・施設等割引(ドラッグストア店舗商品5%引きなど)




  • 運転経歴証明書の発行(身分証明書として使用できます)



まだまだ、この程度では、車を運転していた頃に比べたらメリットが少なく感じますよね。今後もっとよいサービスが免許返納者には提供されるようになって欲しいものです。


まとめ


私の実家の父は、一人暮らしのため、70歳を機に免許を自主返納しました。最初はとても不便で腹が立ったようですが、車に乗らない分、公共交通機関を利用する他になるべく歩いて行動することにしたようです。生活のスピードは格段に落ちますが、移動に時間が取られる分、公共機関の時間を考えるために頭をよく使うようになり、歩くことが増えて健康にもなり、車生活では見えなかったもの、手に入れられなかったものを得られたと、免許返納後しばらくして連絡がありました。


「娘たちから無理やり免許を返納しろと言われて腹が立ったこともあったが、今では良かったと思っている。歩くことが増えて以前より元気になったし、血液検査の値もよくなった。ウォーキングの途中に寄る喫茶店で友達も大勢できて、毎日おしゃべりが楽しいよ。」


認知症は早期診断、早期治療が大切です。

これって認知症?




「うちのおばあちゃん、最近よく財布を盗まれたとか言って探し回り、嫁の私が盗んだって言うんですよ。」


「おじいちゃんたら、いつもの散歩コースなのに、この前迷子になって家に帰れなくなって。」



「突然、死んだおじいさんがまだ生きてると言い張り、おじいさんが帰ってくるまで鍵を閉めてはいけないよ。などと、変な事を言うんです。」



「最近、おじいちゃんたら、車をよくぶつけるんですよね。」




「ばあさん、最近、料理を作らなくなってね~。どうも作り方を忘れてしまったみたいで。」


こういう事が続いたら、認知症を疑った方がいいかもしれません。



「先生、私、認知症かも。この前もイオンのショッピングモールに行った時、どこに車を駐車したかわからなくなって、警備員さんに探してもらってね。南3階の真ん中ぐらいの駐車場でとなりに大きなベンツが停まってて、車番は〇〇〇〇でね。なんて言ってたら、目の前に自分の車があって、2人で大笑いよ。」



「あの芸人さん、ほら、誰だったかしら。ギンギラギンの衣装を着て、りんごとパイナップルを持って、歌うあの芸人さん。あっ。もう名前思い出せないわあ。」


これらは、おそらく認知症ではありません。詳しく経緯や、状況を説明できるのは、普通に年相応の健忘症、若しくは注意欠陥によるものです。

どこの病院に行けばいいの?


かかりつけ医がいる場合


まずは、いつもかかっている病院に相談しましょう。かかりつけ医は様々な角度から患者さんを把握しています。かかりつけ医が認知症専門医でなくても、過去の病歴や性格などもある程度把握していることから、より的確な認知症専門医を紹介してもらえるはずです。


かかりつけ医がいない場合


脳外科、精神科、心療内科、神経内科などで診てもらう事が出来ます。またもの忘れ外来という科を持っている病院もあります。分からなければ、お住いの役所に連絡をとって、地域包括センターなどに相談し、的確な病院を教えてもらうのも一手です。


どんな検査があるの?


認知症は外来通院のみで、検査が出来ます。医師は、まず、認知症だと疑われる人に対して診察や問診を行います。普段の様子について本人だけでなく、家族の問診が重要性なので、
1人で行かずに家族と共に受診することも大切です。
1.まずは、タッチパネルと呼ばれる簡単な質問形式のパネル操作をしてもらいます。5分程度で終わる簡単な質問をタブレット型端末にタッチして答えていくものです。
?あなたは何歳ですか?
?ここはどこですか?等の簡易なクイズ形式です。
それと共に心電図、レントゲン、血液検査、画像診断(CT)などの検査が行われ、総合的に認知症かどうかが判断されます。
血液検査では、血糖値やコレステロール値など生活習慣病がないか測定し、ビタミン、亜鉛なと、頭に必要な栄養素が充分足りてるかどうか、心電図レントゲンで、他に疾病が隠れていないかなど、詳しい検査を行います。
これは、認知症の発症リスクが高い病変を把握するのが重要と言われているからです。
また画像診断では、CTやMRIなどの脳の状態を検査し、認知症の原因を特定します。
更に詳しく脳の状態を調べるためにSPECT(脳の血流の状態を調べる)検査や、DATスキャン等、認知症に似て非なる病気との鑑別のため、実施している病院もあります。画像診断の結果は、認知症などの診断を行う上で重要な所見となります。
そこで認知症が疑われた場合、認知症と診断する上でもう1つ行われる重要な検査はMMSE簡易認知機能テストやHDS-L長谷川式簡易知能評価スケールなどの机上でのテストです。テストの正答率により認知症がどの程度進行しているかを判断します。👇


認知症と診断されたら。


まずは投薬。残念ながら、現在、認知症を根本的に治すことは出来ませんが、飲まない時より、緩やかに進行を抑えることは出来ます。進行を遅らせたり症状を改善させたりすることで、場合によっては、介護者の負担を大幅に軽減することも可能です。 ですが、薬のせいでかえって症状が悪化してしまうなどの副作用の問題も出てきているので、薬を服用する際には注意も必要です。
認知症患者は、薬を服用したことも忘れます。 薬は必ず本人任せにせず、家族や介護するものが充分気をつけてください。

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